戯作者と絵師ひさびさに会う (当時の案内物より)
天沼春樹氏、太田螢一、於 トムズボックス
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太田 |
いゃーっ、どうも、そのせつは。 |
天沼 |
なかなか辛い仕事だったんじゃないですか。 |
太田 |
いえ、昔から谷崎潤一郎氏とか北原白秋なんか偏愛していて、それに近いものがありましたし、エキゾチイズムというか印度あたりの風物は描いてもいましたからね。こういうマンダラ的世界は好きですね。輪廻転生といっても、これがこうなんだっていうおしつけがなくって、わりかしそうなのかもしれないねって感じで物語が循環しているでしょ。それに、作者と物語の中の存在が、等身大ではないでしょう。今、そういう作風あまりないから、期待しているんです。 |
天沼 |
作為ってのはあまりないですね。だいたい、今度はじめて作品集だすんですけど、この種の物語はトランスのノリで書いてまして、構成なんか考えないでずるずるペン先から文章が生まれてくるプロセスを愉しみましたね。合田佐和子さんには負けますが。(註 トムズボックス発行『オートマチズム』参照) 前近代的というか、反近代的というか、霊媒かイタコのイタロウといいますか。太田さんのあのグニョグニョ曲線はどちらですか。 |
太田 |
ある日、自然に線がうねりはじめましてね。美しいものにおしつぶされていく世界を、有機的に、気持ちのよどみみたいなものを解放していくとああいう線が出てきたんですよ。 |
天沼 |
そして、象徴化して簡略化へ向かうのではなく、逆に書き込んでいくことで、 |
太田 |
そう、行程を増やしていくことが重要なんです。一色の色彩にいたるまで多くの色をかさねていくとか。 |
天沼 |
見る者は、表面の色だけみているが、実はその下に幾重もの色が塗り込められている。後世の科学分析で発見されたりして。ダビンチみたいに。 |
太田 |
まったく別の絵が描いてあったりしてね。(笑)(あらたまって)だけど、芸術だなんてあんまり考えませんね。ただ、お気にいりの工芸品というつもりでつくってますね。 |
天沼 |
そうですね。じいさんになってから愛玩したいような作品を残したいですね。 |
太田 |
もう秋ですね。 |
天沼 |
はい。 |