「西安の子供市場」は1983年「人外大魔境」の為に作詞し上野耕路氏の作曲で当時10才の林牧人少年(ひばり児童合唱団)に唄って貰った。地球上の様々な秘境をパノラミックに展開してゆくのをテーマに小栗蟲太郎の「人外魔境」をイメーヂテキストとしたトータルアルバム「人外大魔境」。当初から1曲は必らずや東洋ムードの楽曲を入れようと目論んでいて以前見た大昔の「子供市場」の写真の子供達のおつむが冬瓜みたくコロコロしてて可愛かったなと想い出して大正童謡みたいなエキゾチックで叙情的童謡をイメーヂしてこしらへた。「安寿と厨子王丸」の話の様に人の世の運命を象徴する大河を船で運ばれる子供。頭上の星は、川面にもその光を映つす。星影に包まれて花々の中で楽しく遊んだ日々を想い出し幸わせな未来を願うのだった。儚くせつなげな気分をより強調するために楽しげなる部分を入れ込んでみたがこおいうことは全ての創作において必要なことね。そして、あんまり素晴らしい曲がついてきて感動に胸高鳴ったっけ。他の楽曲もそうだけれど私の想い描くビヂョンを具現化して尚もそれ以上の効果を発揮してゆく作曲ができうる人物は上野氏以外そうは居ないのではないだろうか。

 清らかな歌声を聴かせてくれた林牧人君はそれ以前映画「誘拐報道」主題歌でのボーイ・ソプラノを聴いてこの少年に頼もうということになった。録音当時 小学校五年生ながら せつない気分を見事に表現して我々をホロリとさせてくれた。90年代初め雑誌「Olive」で童謡特集した折、友達の編集者にひっついて ひばり児童合唱団を訪ねたら牧人君も駆けつけてくれて大人になった姿を見せてくれた。近ごろはfb上で再会できてとてもうれしい。彼は名前の「牧人」のしめすとうりに牧師となり教会でカウンター・テナーで賛美歌を唄い現在は保育園の園長先生ともなられている。彼の歌唱は「人外大魔境」全ての完成度を大いに高めてくれた。

 私の見た子供市場の写真は大昔の物だったけれど21世紀の現在においても未だに世界のあちこちで色々な目的で売買されてしまう子供達のなんと多い事か! かえって以前より増えているのではないだろうか。今こうしてゐる時も不如意な運命に悲しみの泪を流してゐる子供達が居るのだ。「西安の子供市場」を聴いたならばそういう子供達の事にどうか少しだけでも思いを馳せて欲しい。明日をも知れない子らに光あらん事を願いたい。

 偉大な挿画の先人達の作詞曲、竹久夢二に「宵待草」、蕗谷虹二には「花嫁人形」、加藤まさをに「月の沙漠」があり、そして私、太田螢一に「西安の子供市場」があるのです。自らの人生の美しい宝石と大切に想ってゐる。ありがとう上野君。それにしてももうちょいと拡がりが欲しいものね。当時ヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)の「東京画(Tokyo-Ga)」やY'sのショーに使われたりはしたけれどそれっきりで他の人に唄われる事もないのは実にさみしいものね。
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